種崎の貴船さま

 長岡郡三里村(現高知市)種崎の浦戸湾口の浜辺に近く、高い二本の松とくす、むく、たぶのき、えのき、ふぢなどの老木で、こんもりとした神域になっている貴船神社というお宮がございます。
 土地の人々は、これを貴船さまと呼んでいて、御祭神は女の神様であると伝えていますが、女の神様でありながら踊りが嫌いでお相撲の好きな神様であるといわれていて、雨乞いの時にはお宮で踊りをすると必ず雨になると申します。
 ご神体は、この村にある仁井田神社よりは小さいけれども、目方はずっと重いとのことで、昔この村の漁師が、沖あいで網にかかった石を棄てても棄ててもかかってくるので、持って帰って浜へほうり上げると、御光がさしたのでびっくりして貴船さまにおまつりしたとのことであります。
 古老の記憶によりますと、神社にはもと十一本の老松があったと申しますが、明治三十二年かの大変(暴風)に三本倒れ、その後次々に倒れて、今では二本だけになっているとのことですが、この二本は高さ七八間もあるような老松であります。
 今一人のお婆さんの話によりますと、昔の大変には、種崎の千本松の上八尺以上の所を水が通ったと言い、その時貴船さまの鳥居の前では、その水が二つに割れて、お社は何ともなかったということであります。
 そしてその時浦戸から見た人が、種崎が火事ぢゃと言ったと申しますが、それは貴船さまのお示しぢゃっつろうということになっているとのことでございます。
 
(土佐の民俗叢書「土佐の傳説」桂井和雄著 昭和26年8月1日発行)
 
 
貴船さまの夏祭りで相撲を取る子ども等(2018年7月)