浦戸湾のコットリ

三里史談会の発行している会誌「大平山」40号に「想い出の三里(上)」と題して、少年時代に慣れ親しんだ浦戸湾の回顧録が掲載されています。時代は昭和、いよいよ浦戸湾が埋め立てられるという頃です。
 
 
「少年時代は、仁井田を中心として、池の療養所から種崎の貴船神社までの三里のほぼ全域でいつも誰かと何らかの遊びをしていた。以下は昭和30年代のワリコトシ(悪ガキ)が書いた想い出の三里です。
(中略)
数年後の浦戸湾理立てが始まる直前のころ、ジャリ道がアスファルト道になると同時に水道管が埋設されると、海辺の塩の匂いは消えカルキの臭気が勝るようになった。魚のエサとなるタカムシやゴカイを獲り、釣りざおを手に、秋グミが実る十津のナンミョウ(南無妙の鼻)の岩場に行った。コットリやフグにすぐエサをとられるが、ハゼが多くニロギやウナギ、小さいチヌが釣れ、水門では手長エビとチチッコウが釣れた。」
 
 
文中にはこのほかにも様々な水生生物が登場しているのですが、タカムシ、コットリ、チチッコウという名前に引っ掛かりました。
タカムシはゴカイと同類?コットリ、チチッコウはきっと魚類です。
いろいろ調べてみたのですが情報は見つかりませんでした。
 
知り合いの昭和40年代のワリコトシに尋ねてみたところ、「あゝコットリ、おったねえ」「メダカくらいの小さい魚で、釣り上げるというよりは、エサをつつきに来る感じ」と答えが返ってきました。
なるほど、この辺りでは「コットリ」と呼ばれる魚がいることは間違いなさそうです。
 
その後、地元で長年漁師をしていたH氏に三里地区の古い話を伺う機会に恵まれました。
そこで「コットリ」について尋ねたところ、
「あゝそれはコトヒキのことよ」と即答、その場で図鑑を開いて確認していただきました。
 
魚に限らず、特定の地方や地域での独特な呼び名を方言とか地方名と言いますが、「コットリ」はそれにあたります。
それに対して「コトヒキ」は標準和名、一般的な名称で図鑑の索引にあるのはこの標準和名です。
最近はこのような地方名に関する調査はかなり進んでいて、WEBで調べればたいてい何らかの資料が出てくるものです。
検索しても出てこないということは、かなり狭い地域に限られた呼び名だと思われます。
 
タカムシ、チチッコウにしてもしかりです。
チチッコウは魚類図鑑で確認し「チチブ」であることがわかりました。
タカムシは、ゴカイのようなもので、当時釣り餌としてふつうに使われていたようですが、その正体はまだ未解明です。
 
2016 年8 月に仁井田(中州)で採集した全長3㎝のコットリ
 
コトヒキはスズキ目シマイサキ科コトヒキ属の魚で、産卵期は春から秋、沿岸のごく浅いところで成長し、秋が深まると3cmほどに成長した稚魚が河口に集まるようです。成魚は最大で30~40㎝になるとされています。(成魚はこちらで確認できます⇒WEB魚図鑑
「コトヒキという標準和名は、高知県の地方名が発祥で、グーグーという鳴き声が琴の音に似ていることに由来する」と書かれている記事がありましたが、その辺りはもう少し詳しく調べてみないとわかりません。
また「コットイキ」「コットヒキ」と呼ぶという情報を地元の方から得ています。